テオの銀の雨降る日々

 詳しくは<<はじめに>>をご参照ください。


過去からのメール11――【5/3テオ 記す】

「ああ、もうすぐ時間じゃん」
 俺はサイズの合わない腕時計の文字盤を見た。

 もうそろそろ、住吉を離れなくちゃいけない時間だ。


「どうしたの?」
「今からゴーストタウンに行かないと、学園に戻るのが遅くなっちまうから」
「ごーすと・たうん?」
「ああ。人が住まなくなって、世界結界が緩んでる場所さ。
 ゴーストが大量発生するから、そこを定期的に掃除するのさ」
「そんな怪我で!?」
「大丈夫。仮にも俺、能力者だぜ」
 さすがにゴーストを数体、倒すのが関の山だろうけれど。
「あなたね…」
 少しだけ言葉を失う彼女に、俺は最後に伝えるべき言葉を言った。


「学園に来ないか」
「えっ?」
「このままだと将来、レキナは『見えざる狂気』って奴に犯される。
 力が、お前を変えちまうんだ」

 ……かつて、俺が狂気に呑まれたように。
 今度は靂奈が、誰かを傷つけてしまう。
 それは耐えられない。

 靂奈は俺の顔をじっと見つめていたが、やがて首を横に振った。
「家族が、住吉にいるもの。
 置いては行けない」
「けど!
 イグニッションカードが無いと、あんた…」
「…大丈夫。今は行けないけど、高校になる頃には必ず行くわ。
 だから心配しないで」
 そう言って彼女は笑う。
「…そっか」
 俺はほっとしたように、肩の力を抜いた。


「じゃあ、俺は行くよ」
「テオ君!」
 その声に、俺は振り返った。
 靂奈は、真剣な目で俺を見、そして言った。

「あの、ね。
 小学校の女の子が、友達に呼ばれたってだけで、夜中に人目の無い所まで行くと思う?」
「…そういや、そうだけど…」

「私、テオ君のことが好きだった。
 今でも、好きなの!」

 言葉を失った。
 俺は、靂奈のことをもっともっと深いところで、裏切っていたのだ。


「……悪ぃ。
 俺、今、好きな奴がいるんだ。
 俺、どこまでお前を傷つけちまうんだよな……」


 どれだけ詫びようと、彼女には言葉が足りない。
 俺は……。


「私、諦めないから!
 高校になったら、絶対にテオ君にアタックするんだから!
 それまで、絶対に死んじゃダメだからねっ!」

「…死ぬかよ。
 俺は生きて償うって、義父さんと義母さんに誓ったんだからさ」

 俺は頷いた。

 そして、彼女と別れた。


 去り際に一度だけ振り返ると、彼女の元に黒猫が近づいていくのが見えた――。



テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム

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