テオの銀の雨降る日々

 詳しくは<<はじめに>>をご参照ください。


過去からのメール4――【4/27 ? 記す】

「そこにいるということは、『洗脳』も解けているはずだ。
 ……だからといって、それをそのまま信じるのも危ういが」

 前菜のサラダが運ばれてきた。
「食べなさい。
 ここは値段の割に、非常に味はいい。
 後で、ケーキのワゴンサービスもあるそうだ。楽しみにしておきなさい」

 相手はそう言って勧めてくる。
 相手にとっては安い金額ではあっても、学生には手が出るコースでは無いけれども。


 サラダを食べ終わった頃、私はもう一度口を開いた。

「彼は、まだ、私を恨んでいるとお考えですか?」
「人はどんなことで他人を恨み、あるいは赦すのか、分かりません。
 あの場所にあなたが居合わせたことは事実ですしね」
「……あの時のことは、後悔しています。
 私が止めていれば、彼は……」

「無理を言ってはいけません」
 相手はそう言って首を振った。
「あなたはまだ目覚めたばかりでした。
 まだ力を使いこなせていなかったでしょう?」
「それは……その通りですが」

「私はあなたの素質に惚れて、力を与えたのですよ?
 それを無駄にしてほしくはないのです」
 相手は私の瞳を覗き込んでいる。
「あなたの雷神の力は、貴重なのですから」


 メインディッシュが終わるまで、私達の言葉は途切れた。
 やがて相手は根負けしたように、こう切り出した。


「それでも逢う気ならば、私が近くで護衛しましょう」
「え?」
「吸血鬼の力をしばし封印すれば、猫に化けるぐらいはできます。
 元に戻るにはかなりの時間がかかりますがね」
「いいんですか?」
「あなたを失うぐらいならば、安いものです」
 そう言って彼は笑った。


「……ごめんなさい、お願いします」
 私は頭を下げた。
「分かりました。
 あなたにとって、テーオドリヒ君のことは越えなくてはならない試練のようですからね」
「そうかもしれません。
 やっぱり、逢いたいんです」
「情は時に足を引っ張りますが、時に力になります。
 私は否定しませんよ」
 そう言うと、彼は私の後ろへと視線を移した。


「…ワゴンが来ましたね。
 私はここのカシスのムースケーキが好きなんですよ。
 好きなだけ選びなさい」




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背後の初めてのGT

 とうとう、GTを開けちゃいました!



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過去からのメール3――【4/27 ?記す】

「調べてみたよ」
 流暢な日本語でそう言うと、目の前の貴族種吸血鬼は笑った。

 彼は私に血を分けてくれた恩人だ。
 彼のコネを利用し、私は『テーオドリヒ』君の消息を追ってもらったのだ。
 そして彼は夜、住吉川に面するフランス料理店を出会いの場所に選んできた。

「思っていたより、早かったですね」
「まぁね。
 銀誓館に問い合わせてみたら、一発だったよ。
 なにしろ彼は、現在は銀誓館の生徒になっていたんだから」

「えっ」

 意外だった。

「間違いないだろう。
 彼は銀誓館のコネで、警察からご両親の遺品も受け取っている」

 『遺品』。
 その言葉に、私は一瞬言葉を失う。



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過去からのメール2――【4/24 ? 記す】

『逢いたい。君に、謝罪したいんだ』
 その文面に、私は言葉を失った。





 もう二度と、『彼』に関わることは無いと思った。
 彼の、世界の全てを憎むような、恐ろしい瞳を忘れられない。


 『あの日』、『彼』と私の関係は一変してしまった。


 『彼』は神戸に複数ある『インターナショナル・スクール』での同級生だった。
 『彼』は結構明るく、男っぽく振舞おうとする割に妙なところでドジっ子だったりして、容姿も相まって人気者だった。
 私も彼には好意を――ううん、本当を言えば片思いに近いものを抱いていた。





 だからあの日、呼び出されるまま、川沿いの橋桁に私は向かった。
 そして、私が告白しようとする前で、彼はこう言った。

『昨日、あの黒服と何をやってたんだ?』


 ……私は彼に本当のことを話してしまった。
 自分に眠る祖先の力を引き出してくれるという男性と、契約したことを。


 あの人には、『人狼に気をつけろ』と言われていた。
 だけどまさか、この三年間一緒に過ごしていた彼が、人狼だったなどと思わなかった。


 『彼』は突然、その姿を狼に変え、襲いかかってきた。


「ら、雷神・菅原公の血を持って――!」


 ――力を振るう間も無かった。
 私は殺されるのを覚悟した。


 その時、『彼の義両親』が目の前に飛び出してきたのだ。


 ――その後の惨劇は、思い出したくは無い。


 私は止めることもできずに、逃げ出したのだから。





 その後、彼の義両親が亡くなった事を知った。
 だけど、彼自身の消息は途絶えたままだった――。





 このメールの中身をそのまま信じてもいいの?

 私は、しばらくその場に凍りついた。
 


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過去からのメール1――【4/24テオ記す】

 依頼に出発し、電車に乗っている時間。
 俺は、これからの依頼に緊張しながらも、メールを打っていた。


 ……このアドレスに、メールする時がくるなんて、思わなかった。


 『彼女』とは二度と関わるつもりはなかった。
 関わってはいけないとも、思っていた。


 だが、今回の依頼の中で、俺は考えを変えた。
 『彼女』に逢わなきゃいけない、と。


 ……たとえ『俺の罪』が赦されることはなくとも。
 ただ一時であっても、自分を赦さなきゃいけない。
 赦されてもいいんだ、と信じなくてはいけない。


 だから俺も自分自身に『彼女』と逢うことを赦した。
 俺が償わなくてはいけない相手で、唯一生きている『彼女』と。

 その『逢う覚悟』をもって、ナナさんを赦そうと、思った。



『逢いたい。君に、謝罪したいんだ』
 そう打ち込んで、送信する。


 届け、俺の覚悟。
 ――たとえ、返事は決して来なくても。



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シルバーレインRPGの公式専用サイトができました!

 もう、すっごくワクワクしています!
 だって、自分はグループSNEのサイトで『シルバーレイン』の存在を知った人間ですから!


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プレイング――【トモノユクスエ】

 出発直前にちょっとだけ修正したので、その修正版を。

************************

◆心境
 大切な者を手に掛けた事は、決して赦されねぇ。
 自縛霊も、ナナさんも、俺自身も。
 けど、今だけは…。


◆仲間が明記した共通認識(☆)に従う。


◆行動
・現場まではできる限り急ぎ、イグニッション後に踏み込む。

・自縛霊が眠った場合、
天谷先輩達がナナさんを安全な場所まで移動させる(移動出来なければ庇える)状況になるまで攻撃を止める。

 攻撃の一撃目は、自縛霊に『バインディング』、
あとは相手が『眠り』『マヒ』『怒り』のBSから回復した直後に使用。

 それ以外とアビリティが尽きた場合、自縛霊の射撃に徹する。


◆ナナさんの近くにまだ自縛霊がおり、
なおかつ眠っていない場合だけ、派手に撃ちながら
(ただし仲間やナナさんには当てないように細心の注意を払う)
同時に言葉で挑発し、意識を引く。
「俺みたいなガキにビビってんのかよ!」
 

◆戦闘後
 速やかに倉庫からナナさんを連れ出す。
(彼女が重症なら、手当後に病院近くで119通報)

 もし彼女が自殺未遂や遺体の確認をしようとするなら、全力で止める。

 彼女が落ち着いたなら、俺も会話に参加。

 彼女の手をぎゅっと握る。
「…俺もほんとは昔、似た事をやったんだ」

 この時だけは、彼女も自分自身も、赦し勇気づけるつもりで。

「ナナさん。
 これから何があっても、辛くても、生きて。
 そして彼女の存在、思い、全部抱えて生き抜いて欲しいんだ。

 俺も、忘れない。
 それが俺にできる唯一の償いなんだから」

************************

アビリティ
術式 フレイムバインディング奥義 ◆◆◆ ×4

武器: 魔性詠唱ガトリングガン
武器: 詠唱ガトリングガン
防具: ハーフコート

アクセサリで能力値を鬼術に特化。


************************

 ちなみに、現在のステータス画面(特に自己紹介欄)はこの依頼専用。
 こちらは現時点で決定稿。

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トラウマと信念に揺れて――【4/22】

「…………・うひゃひゃっ!?」
 考え事をしていた俺を襲ったのは、ミージュのぺろぺろ攻撃だった。

「く、くすぐってぇっ!?」
「はい、もういいですよ。ミージュ」
 さっきまで読書にふけっていたはずの幻が、俺の方を見ている。
 その声に、ミージュは止まる。

「…な、何ミージュをけしかけてんだよ」
 頭を掻きながら、俺は口を尖らす。
「また、思いつめた顔をしていたからですよ」
 幻が肩を竦める。

「テオ君がそんな顔をしている時は、トラウマを刺激されてるときですからね」


 図星だよ。


「その顔だと、当たっていますか?」
「……今度の依頼のことで、さ」

 俺と、今度の救出すべきナナさんを重ねるな、という方が無茶だ。

「……死なせねぇ。
 死んで楽になるなんて、そんなことはもう許されねぇんだ」

 そして、引き返す時間を奪った自縛霊を許せない。

「こんな時に、私が何を言っても無駄でしょうが……」
 幻はいっそ優しい表情で、こう切り返した。


「『ゴーストを、結界の向こうへ還す。
 在るべき場所へ還すのが、俺達が果たせる唯一の慈悲だ』
 そう言ったのも、あなたですよ」


 その時、俺の中の熱がすっと奪われていった。


「怒りや苦しみだけでは、相手を救えなくなりますよ。
 たとえ今は歪んでいても――自縛霊もまた、あなたが救うべき存在なんでしょう?」


 幻の言葉――いや、『俺自身の言葉』に、俺は混乱する。


「出発まで時間はあるんですよね。
 落ち着いて、考えを整理してみたらいかがです?」


 幻はにっこりと笑うと、読書へと戻っていく。


「そう、だな……」


 ………落ち着け、俺。
 俺は、この依頼で何をするべきなんだ?



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プレイング――偽イベ【狼たちの宴】

◆ 心境
りょくろ先輩の誕生日だもんね。
 思いっきり盛り上げなくっちゃ!

◆ 準備
 小さな花束と、プレゼント。
 それとは別に、友人に頼んでバニラの香りのする紅茶をたくさんの保温ポットに淹れてもらってくるよ。

◆ 会場にて
「りょくろ先輩、おめでとー!」
 狼変身(暗灰色、短足の小柄な狼)してから、りょくろ先輩にすりすりした後、元に戻って席につくよ。

 カイン先輩が紅茶に砂糖を入れようとしたら、
「砂糖、控えないとだめだよ?」
と、りょくろ先輩と一緒に脅かすからね。

 一緒に食事をしながら、以前にりょくろ先輩と一緒になった依頼
『いらず峰の邪神』
http://t-walker.jp/sr/adventure/rp.cgi?sceid=5346
の話なんかを皆にしてみるよ。

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報告書【氷炎の狼 テーオドリヒ・キムラ】-12(最終)

【IV】

「この前は、ありがとうございました」
 一週間後、能力者達がいる教室を少年が訪れた。
 能力者の生命力だろうか、痣やすり傷はすっかり消えていた。

「もう、大丈夫なのか?」
「はい。怪我も治ったし」

 彼は洗脳を解かれた後、かって所属していた騎士団と一緒に銀誓館の関連施設に滞在していた。
 泣き疲れて眠ってしまった彼を引き渡すとき、騎士団の人間は警戒心をむき出しにしていたけれども。

「俺、同じ騎士団の先輩達にも本当のこと、言ってきたんです。
 皆、言葉を失ってた」

 能力者達はうなづいた。

「皆さんがくれたメモ、読んだよ」
 少年の手にある手紙には、少年に伝えようとしてたメッセージが寄せ書きされていた。
 それにもう一度だけ、目をやると、少年はうなづいた。

「俺、生きなきゃだめなんだよね。
 生きて生きて生き抜いて、償っていかなきゃいけないんだよね。

 そうして、罪に向き合うことで、義父達と一緒に生きていくんだって」

 拳を胸に、震える声で、少年は言う。

「そうだ。
 そうしなきゃいけないんだ」

 一人の能力者が、少年の頭に手を載せ、頷く。

「……うん。
 俺、誓います」

「頑張れよ」
「君なら大丈夫だから」
 能力者達は口々に励ましの言葉をかける。 

 少年は黙って頭を下げた。


 少年が普通クラスに転入するのは、2か月後のことである。

 

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報告書【氷炎の狼 テーオドリヒ・キムラ】-11

【VIII】


 夢の中で、彼は泣きじゃくっていた。
 攻撃的で乱暴な雰囲気は消え去り、こうしていると年よりもずっと幼く見えた。


 風に、桜の花弁が舞う。
 最初は緩やかに、だがやがて流れるように風の中を去っていく。



 花の嵐の中、誰かに抱きとめられる。

 少年が顔を上げると、そこには義父母がいた。
 彼らは何も言わず、ただ彼を愛おしげに抱きしめた。


 少年は泣いた。
 ただその胸の中で、泣いた―――。

 
 

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プレイング――【北の老舗】

 以下は稲垣幻のプレイングです。

【心境】
 これが大正時代の煉瓦造りの倉庫ですか。
 当時の人々が西洋に焦がれた気持ち、伝わるようです。

【行動】
「…えっと、『明治から大正12年の関東大震災まで、西洋工場や官庁や駅など、あらゆるものが赤煉瓦で立てられた』…」
 持参した『西洋館についての初心者ガイドブック』を片手に、建物をじっくり見ます。
「『その60年間に、煉瓦建築は西欧を追う段階から、芸術の域へと発展させたのだ』」
 本から外へと意識を向けます。
 するとここは、その煉瓦造りの最盛期の建物ということですね…。
 
 建物の装飾や様式など、全体から細部まで、じっくりと鑑賞したいと思います。
 倉庫に携わった全ての方の思いに、耳を傾けるように。


 参考文献は『西洋館を楽しむ』(増田彰久 ちくまプリマー新書)です。

 ……背後がまず行きたいっ(自爆)!
 いろんな西洋館を私も見てきたけれど、こちらもぜひ見てみたいですね。

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報告書【氷炎の狼 テーオドリヒ・キムラ】-10

【VII-ii】

 能力者達は少年に状況証拠だけを突き付けた。
 だが、決して推測は話さなかった。

 彼は、能力者の女性の腕の中でそれらを聞いていた。

「聞かせてくれ、真実を。
 君の言葉で」

 あくまで、少年の口から真実を話させたのだ。
 そうすることで、彼が真実を認められるように。

 認めなければ、受け止めることも、乗り越えることも、できないのだと。


「……俺は、いつからか、吸血鬼を殺さなきゃいけないと焦り始めたんだ」


 騎士団にいたわけでもない彼にネジ蟲を植え付けられた理由は、いまだに分からない。

 吸血鬼の潜伏箇所に近い場所に住んでいたからなのか。
 あるいは、自分の学校に従属種ヴァンパイアがいたからなのか。
 ネジ蟲の真実が分からない以上、推測にすらならない。

 ただ、ネジ蟲の衝動は、確実に彼を蝕んでいた。



「焦っても、ならどうすればいいのか分かんねぇでさ」


 だが、少年はまもなくクラスメイトの真実を知ってしまう。
 彼女が従属種ヴァンパイアになったことを。


「俺はその夜、あいつを呼び出した」

 彼女は、テオの言葉通り、夜中にやってきた。

「俺は何にも考えないで狼に変身して、あいつに襲いかかった……」

 少年の話が途切れた。
 代わりに続いたのは、押し殺された嗚咽だった。

「それから?」

 残酷な問いを、能力者は発する。
 少年は嗚咽をかろうじて飲み込むと、息をひとつ吸い、一息にこう叫んだ。

「その間に、義父さんと、義母さんが…っ!」

 後はもう、会話などではなかった。
 少年は全ての思いを吐き出した。


「……俺……訳が分からなくなって……!!
 両親からの仇を……義親父達が庇って……!!
 頭ん中、ごちゃごちゃになって……でもどうしようもなく苛々して……!!
 無茶苦茶に暴れてたら、動くものも無くなってて……!!

 ……目の前で………義父さんが………義母さんがっ……!!」



 うぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁ―――――!!!


 少年は絶叫し、渾身の力を込めて泣き出した。


 ……彼はようやく、己が犯した罪を、その苦しみを、認めたのだ。

 
 

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スク水?――【4/16テオ記す】

「そう言えば、この前変な依頼があったの知っていますか?」
「変な依頼?」
 幻の言葉に俺は首を傾げる。
「ほら、プールに自縛霊が出たというものですよ」
「ああ、俺も申し出たよそれ」
 いろいろあって、他の先輩方が参加することになったものだな。


「なんでも、その自縛霊は『スクール水着』に変質的な情熱を燃やす変態だそうです」


「――!」
 思わずカモマイル・ティを噴きかけた。
「……へ、変態ねぇ……」
 特殊な趣味の是非を問うつもりはないが、見境なくそれを他人に押し付ける者には制裁を加えてもいいと思う。


 ……やばい、結社の先輩方に毒されてるな、俺。


「まぁ、それに参加する予定のブリギッタ・シュトルツィング先輩も、妙に乗り気らしく、話題になっています」
「ブリギッタ先輩?」
 時々話題になる先輩だから、俺も知っているし、見かけたこともある。
 俺と同じクルースニクで、素直な性格の人だそうだ。


「スクール水着を着る気まんまんだということです。
 噂だと、オタク趣味の『萌侍』なる方に洗脳されかけているとか」
「…洗脳」
 

「私としては、円花先輩のような方が増えるのは…」
 身震いのような仕草をして、幻が口を閉じる。
 …ああ、例の『短パン少年』好きの先輩のことか。ぷちトラウマになってるようだな。



「スクール水着よりもっと似合うの、ありそうなのにな」
 買い物途中で見かける女性水着売場を思い浮かべながら、俺は呟く。
 市販の水着は、ワンピースやショートパンツにしか見えないものから、洗練されたデザインまで、ほんとに多種多様だ。

「俺達男子と違って、いろんなパターンがあんのに。
 なんか、選択肢を自分で狭めてるみたいで、もったいなくね?」
「そう思いますよ、私も」

「自分がほんとに着たい物、着ればいいのにな」




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土蜘蛛の女王に想う――【4/16 テオ記す】

「馬鹿だよ、あんたは」
 昨日、報告書を読みながら、俺は吐き捨てた。





「昨日の言葉、どういう意味だったんですか?」
 幻がミント・ティーを俺に差し出しながら、言う。
「昨日?」
「報告書を読みながら、『馬鹿』って。
 あの後、ミージュがいたずらして聞きそびれちゃったんですけど」
 昨日ひっくり返されたミントの鉢植えを見ながら、幻が言う。


「……俺、ちょっとだけだけど、瑞貴って馬鹿女王の気持ち、分かるから」


 幻が絶句する。


「……いや、『分かってた』って方が正しいんだろうな」
 俺は喉を少しだけ湿らせると、言葉を続けた。

「自分の思い通りにならなくて。自分の中の衝動も抑えきれなくて。
 だからこそ、『自分が心を許した人間』を選んで、それをぶつける。
 わざと、本当に大切なものを、壊す」


 俺は自嘲する。
 ああ、本当にこいつは、1年前の俺に似ている。


「大切だからこそ、それを壊す痛みで、罪悪感をかき消してしまおうとする。
 それを壊す痛みで、自分を壊そうとする。
 一種の自殺だよ、心のさ」


 だから。


「そして、自分で自分の居場所を見失っちまう。
 …自分に完全に忠実な僕なんて、自分の一部でしかねぇのに。
 他人がいない場所なんて、自分もいないのと同じなのに」


 瑞貴。
 お前はいつか、そのことに気づくのか?

 そして。
 俺が抱えるのと同じ痛みに、耐えきれるのか。
 果たしきれない贖罪を、受け入れられるのか。

 だが、これだけは言える。
 あんたにはそれを担う罰が待っているのだと。


「……それでも、あいつにはまだ戻るべき場所がある。そのことに妬いてるよ、俺」


 帯刀さん。
 それでもあんたは、彼の居場所を守るのか?
 その覚悟があるのか?


「逢ってみたい、帯刀さんに」


 これだけの罪人を、それでも許せる人に。大切に思う人に。
 彼と話してみたい。
 瑞貴をどう思っているのかを。
 そうすれば、俺の中の闇も、何か意味が変わるのだろうか。

 それでも瑞貴を大切に思うのならば――力を貸してもいい。


「時が来れば、会えますよ。きっと」
 幻が小さくつぶやく。
「あの土蜘蛛の一族と、学園との間に結ばれた糸は、簡単には切れない。
 私はそう確信しています」
「……だな」


 だが俺に絡む運命の糸は、あいつらとつながっているだろうか。 


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報告書【氷炎の狼 テーオドリヒ・キムラ】-09

【VII-i】

 能力者達は洗脳を解除した後、彼と話をするのを先延ばしにした。
 まずは彼らは少年が住んでいた場所へと赴き、少年と両親について調べる。

 そして、ある確信を得て、鎌倉に戻った。




 
「テーオドリヒ君、だね」
「なんだよ、あんたら」
 彼は壁際に寄ると、即座に四つん這いに構える。


「待って、今日は話を…」
「うっせぇっ!」
 少年の姿が変わっていく。暗灰色(ダークシルバー)の毛並みを持つ、狼に。

「ガゥ!」
 能力者の首筋をめがけ、飛びかかる。
 …だが、その動きはすぐに止まった。

 相手は少しだけ姿勢を崩して腕を噛ませると、そのまま抑え込んだのだ。
「……噛めばいい、お前が望むだけな。
 だが、お前の苦しみは、決して消えない」

 狼はずっと腕を何度も噛む。だが。

「そして、本当はお前が、両親を殺したという事実も」

 能力者の言葉に、一瞬だけ怯み。

「…ちがう」

 彼は狼変身を解いた。

「違う違う違う―――! 俺じゃない、俺じゃねぇ!
 それは吸血鬼が――!!」

 彼は力の限り叫んだ。
 吸血鬼がやったのだと。義両親は殺されたのだと。
 だから、殺すと。

「本当に、吸血鬼が憎いのか?
 それとも、そう思わないと、怖いのか?」

「憎いに決まってんだろ!
 怖いことなんか…」

 意地になって叫ぶ少年を、別の能力者が抱きしめる。
 それを突き放そうとする少年の目の前で、彼女は泣いた。
 その表情に虚を突かれ、彼は言葉を飲み込む。

「……もう、やめようよ。
 きっとあなたの両親はあなたを恨みはしないから」

「もう一度聞く。
 君の中に、吸血鬼に対する憎しみは、今でもあるのか?」


 少年は頷くこともなく、体中から力を抜いた。

 


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背後は煉瓦造りに惹かれて。

 また昨日も日記の更新をすっ飛ばしました。
 ちゃんと書きためとかないとだめだなぁ(遠い目)。

 …で、教室のシナリオ自粛、ちょっとだけ解禁。
背後は煉瓦造りに惹かれて。…の続きを読む

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報告書【氷炎の狼 テーオドリヒ・キムラ】-08

【VI】

 醜怪なるネジ蟲を倒した能力者達は、さらに辺りを探索した。
 …そして。

「おいっ! 来てくれっ!」
 驚きと警戒を込めた叫びに、他の能力者達も集まる。

「ここの花弁の山の下だ」

 …そこだけ、花弁の山がうず高く積まれていた。
 掃き集めたにしても、これだけの量が集まるだろうか。


「見て」
 山を一部払った下から、人の手が現れている。
 彼らはお互いの顔を見、そしてすぐにその花びらをどけ始めた。


 はらりはらりと降る花弁。
 それは時に風に舞い、視界を奪い、能力者達の行動を止めようとする。
 だが、それは逆に能力者達の確信を深めることとなり――。


「…っ!」
 そこには、一組の男女が眠っていた。
「…この時計…」
 能力者の一人が、男の腕時計を示す。
「これ、あの子がしていたのと同じじゃないか?」
「じゃあ、この二人がご両親…?」
「でも、彼には似てないよな…」

「この傷…」
 致命傷となったであろう傷口を示す。
「狼の噛み傷にそっくりだ。しかも凍りついてる」
「…フロストファング…?」
 クルースニク特有のアビリティの痕跡に、彼らはさらに戸惑った。
「…でも、だとしたら小さい狼だね」
 歯形を見た能力者がつぶやく。
 
「…小さな狼…?」
 …その時、小さな声で呟く能力者がいる。
 彼女は死体をもっと真剣に調べ始めた。そして、傷口から一つまみ何かをつまみ上げた。
「…この毛、あの少年の髪と同じ色をしてる」

 ダークシルバーの体毛が、彼女の掌に残った。
 

 

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報告書【氷炎の狼 テーオドリヒ・キムラ】-07

【V】

 はらりはらりと、桜舞う。

 いつか、記憶の底へと沈むために。



 川沿いの桜並木は満開だった。

 両岸の桜と松が、薄紅と濃緑の枝葉のアーチを作り出し、その下の河原を包み込む。
 河原から1mほど落ち窪んだ川底には、浅い流れが輝いている。

 河原の幅は、両岸ともに5〜7mほど。そこにテキ屋の屋台が並び、溢れんばかりの人々が買い食いし、シートを広げ、遊具の上に座り込む。

「…はぁぁ。すごいね、これは」
 人ゴミを掻き分け――本当はその必要はないのだが、なんとなく避けてしまうのだ――、能力者の一人がつぶやく。
「うん。花曇りじゃなくても、少し暗く感じるね」
「これ、夜桜になったらすごいだろうなぁ…」
 能力者達はその光景に思わず見とれ……そして少年の『桜』への想いの強さに感嘆した。

 きゅうん。
 テキ屋の焼きトウモロコシの匂いに釣られ、能力者の一人のお腹が鳴った。
 思わず伸ばした手は、トウモロコシをすり抜ける。

「ちぇ」
「…食い意地が張ってるな」
「ほっとけよ」
「たぶん、彼にとっては屋台も人も、背景に過ぎないんだろうな」
「背景?」
「そうだ」
 能力者の一人は、掌に落ちた桜の花びらを差し出しながら、言う。
「彼にとっては、屋台よりも、桜そのものが重要なだろう」
 桜の花びらを見、他の能力者も納得する。
「…桜には、実体がある…?」
「こっちが、彼にとっての本命…?」

「ま、その謎解きの前に、やっとく事がありそうだ」
 彼らは耳に届く不快な『声』に頷き合った。

 


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優しい香 ――【4/9テオ記す】

 昼食の時間。
 思うところがあって、ひとりで屋上に出た。

 給水塔の陰で、俺はポケットから小さな袋を取り出した。

 ――ポプリの袋だ。
 結社の皆で花見をしたとき、村の記念品として貰ったものだ。

 …ああ、すごくいい香りがする。



 ――桜の香を嗅ぐことは、どこまでも切なく苦しいことだったはずなのに。


 戦争から間もないあの日、俺の中で少しだけ、桜の香が優しくなった。
 皆が、もっと大切になった。

 水遊びをして、鍋やおべんとを食べて。
 先輩達が、同じ想いを抱いてることが分かって。

 本当に楽しくて――泣きたくなるほどに嬉しい時間だった。


 ――おれ、本当に、銀誓館に――この結社に入れて、良かった。


 屋上から見る鎌倉の桜の花は、もうすでにまばらだけれど――
 ――俺は、もう一度だけ確かにその光景を焼き付けた。


参考:<華爛漫> 流れる小川、舞う桜花

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ガイドブックの発売日など

 ということで、ガイドブックの発売日が決まったようです。

ガイドブックの発売日など…の続きを読む

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進級と吸血鬼 ――【4/7 テオ記す】

 始業式の日が来た。
 俺と幻、勇介はキャンパスからしてばらばらになり、寂しくなった。
 ……そして、彼女もいない。

 少々センチメンタルになったところで、教室のビデオ放送に『従属種バンパイアの編入』の情報が流れていた。

 一瞬、息が詰まった。

 昔、自分の弱さから吸血鬼全体を逆恨みし、その命を狙ったことを思い出す。
 そんな、自分の弱さこそ、憎い。


 彼らに合わせる顔が無い。
 他の人狼たちはともかく、俺は――。



「顔色、悪いよ?」
 一般人のクラスメイトが話しかけてくる。
「ん…大丈夫だ」
 俺はそれだけを呟くとうつむき、右手の平を額に押し当て、目を閉じた。


 この罪は、いつか償いきれるというのだろうか。
 俺は、彼らとともに、やっていけるのだろうか。



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報告書【氷炎の狼 テーオドリヒ・キムラ】-06

【IV】

「出せよ! 出せってんだよ、この野郎!」

 子供の叫び声が、銀誓館の一角で響いていた。
 そこは学園の中でも、一般の生徒に隠された地下にある部屋だ。

 『学生牢』――現代の日本にはあるはずの無いもの。だが、そう思わざるを得ない場所だった。

 がつん、がつん。

 激しく体を打ち付ける音――だがそれは、すぐに消えた。

「畜生…」

 その子供は、小さな部屋でひっくり返っていた。
 備え付けてあったはずのテレビも花瓶も、全て激しい衝撃にひしゃげていた。
 どうやら、鉄製のドアにぶつけられた跡らしい。

 少年自身も、体中を痣だらけにしながら息を切らしていた。
 痣の中にはひどい内出血を起こしたものもあるらしく、見るも無残に変色していた。


 彼は力尽きたように横になると、残る気力で叫んだ。

「吸血鬼を庇う奴は、全員敵だ!
 義父さんの、義母さんの敵だ!」

 世の中をすべて呪う言葉を上げ、彼はいつしか眠りについた。




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報告書【テオの過去話2】 | コメント:0 | トラックバック:0 |

花見日和も終わる頃 ――【4/5幻記す】

 その日、彼は瞼を腫らして帰ってきた。
「テオ君?」
 私は思わず驚きの声を上げた。

「幻? どした?」
 テオ君は不思議そうに首を傾げる。
 その表情はむしろ、とても澄んでいた。

「目、酷いですよ」
 私はカードリストから手鏡を出してくると、テオ君に差し出した。
「…うわ、確かに酷いな」
 彼は苦笑いすると、少し疲れた様子で肩をすくめた。

「…ちょっとさ。昔を思い出してきたんだ」
「……ご義両親のことですか?」
 テオ君の育ての親は、亡くなったと聞いた。

「ああ」
 彼は静かに頷くと、部屋に入り、椅子に座った。

「去年、約束したんだ。
 三人で桜を見るって」

 だから、そのことを……両親のことを忘れないために、花を見てきたのだと言う。

「神戸も鎌倉も、違わないな。
 桜の美しさだけは」

 そう言って、彼は笑う。

「でも、心配すんなよ。
 大丈夫だから」
「そのよう…ですね」
 私は頷くと、彼を急かせた。

「もうそろそろ、夕飯の時間ですよ。
 顔を洗って、準備しましょう」



参考文献:『<花見>桜並木の土手にて』

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報告書【氷炎の狼 テーオドリヒ・キムラ】-05

【III-ii】

「これじゃねぇの?」
 図書館で新聞記事を当たっていた能力者の一人が、地方紙を片手に叫んだ。
「ほら、これこれ」
 6月の阪神新聞の隅に、その記事はあった。

『野犬に夫婦襲われる』

「野犬…?」
 その見出しに、一人が首を傾げる。
「被害者の片方が警察関係者で、夫婦。
 で、神戸の住吉って場所で起きた事件はこれしかねぇもん」
 見つけてきた男はきっぱりと言い切る。

「…でもさ。
 吸血鬼に襲われたんなら、『変死体』とか『行き倒れ』の方がしっくりこないかな?」

 世界結界の影響で、本当の死因が新聞に載ったりすることは絶対に無い。
 だが、その結界の作用は『あくまで無理がない形で』だ。

「そうだね。これだと、むしろ人狼に襲われた感じだ」

 彼らはしばし考えていたが、やがて首を振った。
「だめだ。判断材料が足りない」
「そうよね。後は、実際に潜ってみますか」



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二人目の…――【4/3テオ記す】

 二人目の犠牲者が出た。

 そのことを聞いたのは、今日の正午過ぎだった。

「何が、起こってるんだ…?」
 俺は最新の『東北土蜘蛛依頼』のコピーを読んでいた。

 俺は国語は得意だけど、書かれていないことまで読み取る能力なんかない。
 遣る瀬無さと切なさとともに、俺はようやく読み終わった。

「……依頼に入るのが、怖くなりますね」
 幻がぽつりとつぶやく。
「…ああ」
 幻のことだろう、俺以上に心を痛めているに違いない。

「…え?」
 幻が小さく声をあげ、タイム入りのロンポワン(クッキーの一種)を取り落とす。
「いや、まさか……ですよね」
「どした?」
「まさか……『リビングデッド』?」

 どう答えていいのか、俺には分からなかった。

「いや、まさか」
 だとしたら、とっくに先輩達は気づいているはずだ。
 リビングデッドの行動は、不自然になると言われているんだから。
 それに、来訪者が『リビングデッド』になるなんて、聞いたことが無い。

「……ですよ、ね。
 私の予想は大概、外れますから」
 幻がやはりぼそり、と呟く。
「ただ…気になったんです。
 『触れた』というポイント。それと彼の反応が」
「穿ち過ぎだな」
 俺も言い捨て――顔を改めた。
「先輩達は、死力を尽くして頑張ってんだ。
 後からどうこう言うのは、止めようぜ」
「……分かっています。
 分かってはいても……どうしても、考えてしまうんですよ。
 もしも、って」
「世の中に『もしも』はねぇよ」

 そう言う俺も、耐えきれないから。
 せめて、手を組む。

 幻もまた、手を組んだ。
 そして、祈る。


「亡くなった方々に、黙祷を――」
「彼らが、次の居場所へと、辿り着けるように――」



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春の夜の夢――【4/2幻記す】

 夜中に、目が覚めた。
 傍らを見れば、グレートモーラットに戻したミージュの姿がある。
 私はその背中をそっと撫でると、もう一度眠ろうとする。

「う…ううっ」
 その時、私の真上から何かうなされる声が聞こえた。

 私は顔を横に出すと、上の様子をうかがう。
 …傷が痛むのかな。

「も…」

 も?

「『もふもふ』は禁止だよぉぉぉっ……やめて、その『わきわき』はヤだぁぁぁ……」

 私は思わず脱力した。
 あ……そう言えば、最近新しい結社に入ったと言っていたっけ。
 おそらくそれ絡みのトラウマか何かだろう。

 心配して損をしたかもしれない。
 少なくとも傷が痛むわけでも、ナイトメアに捕まったわけでもなさそうなので、放っておく。




 ……まったく、無茶ばかりして。
 私は、先月末の出来事を思い出した。


 3月30日、狂鬼戦争。
 死の匂い――そう言うのは、『死』への侮辱になる。正確には、『死』を汚す物――に満ちた街を、私達は駆けた。
 私はキャスターとして、テオ君はラストスタンドとして、別々に戦場に立ったのだ。


 ……怖かった。


 目の前で何人もの人々が傷つき――時に、動かなくなった体を見て。
 敵のおぞましさと、現実の残酷さに、時に動けなくなったのも事実だ。


 それでもなんとか戦い抜き、帰ってきた時に見たのは――横たわるテオ君だった。


「せ、生命賛歌が抜けてさ――体がいてぇよ」
 苦笑いすると、テオ君はこう続けた。
「ほらな、俺もお前も、死ななかっただろ?」


「心配させないでよ、馬鹿っ!」
 私は思わず叫ぶと、テオ君の体を叩いた。
「馬鹿、痛ぇってのっ!」
「バカバカバカ……」
「しょうがねぇだろ。皆を守るためなんだから……」
 

 今も癒えない傷を抱えて、彼は笑った。




 ……また、戦争があったら、彼はラストスタンドとして動くだろう。
 だから……。


 私はぎゅっと、ミージュを抱きしめた。


 もう、戦争なんて起こらないで…。


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背後の初終戦。

 30日の戦争も、終わりましたね。
 皆様、お疲れ様でした。



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