過去からのメール12――【5/3靂奈 記す】2008-05-10 Sat 17:58
「振られました」
私は足もとの黒猫――師匠である吸血鬼に、呟いた。 ああ、ほんとに――見事に振られた。 10か月も遅れた断りの言葉が、胸に突き刺さる。 私は口をほとんど動かさないようにし、足もとにかろうじて届く声で礼を述べる。 「今日はほんとにありがとうございました」 「にあ」 黒猫は前足を揃えて一鳴きすると、地面を引っ掻いた。 『どういたしまして。 心残りは消えましたか?』 そう、地面を描く。 「ええ、きっぱりと」 黒猫は建物の蔭に入り――そして、人の姿になった。 「彼は、少し生き急いでいるようですね」 「気がつかれましたか?」 「ええ。 彼自身は気づいていないかもしれませんが、ね」 「やっぱり、あの事件が原因でしょうか」 「激情しやすい性格なのでしょうが…。 ご両親の事が、彼を更に不安定にしているのは事実でしょう」 「そう…ですか」 「いいのですよ? 銀誓館に行きたいなら、手続きをしましょう。 彼を止める人間も、傍には必要でしょうから」 「それを私にしろ、と言うんですか? あれだけ見事に振られた後なんですよ?」 私は首を横に振った。 違う女性を追う彼の横にいれるほど、私は強くない。 「彼を止めるのは私の役目じゃない。 だけど……」 テオ君……あなたの養父母が亡くなったのは、あなただけの罪じゃない。 止められなかった、私も悪いんだよ。 「もし、銀誓館に行く時が来たら、それは彼の罪を代わりに背負う覚悟ができた時です。 彼の罪の半分は、私の罪でもあるんですから」 「あなたが気に病む必要など、一つもありませんが…。 分かりました。この話はここまでにしましょう」 気配はまた、猫の形をとり、一つ鳴いて、離れて行った。 「こんないい女、振るなんて馬鹿よ」 虚勢ひとつ張り、私もまた帰路についた。 「死んじゃダメなんだから。 死んじゃったら、銀誓館まで行ってひっ倒すんだから」 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
過去からのメール11――【5/3テオ 記す】2008-05-09 Fri 18:42
「ああ、もうすぐ時間じゃん」
俺はサイズの合わない腕時計の文字盤を見た。 もうそろそろ、住吉を離れなくちゃいけない時間だ。 「どうしたの?」 「今からゴーストタウンに行かないと、学園に戻るのが遅くなっちまうから」 「ごーすと・たうん?」 「ああ。人が住まなくなって、世界結界が緩んでる場所さ。 ゴーストが大量発生するから、そこを定期的に掃除するのさ」 「そんな怪我で!?」 「大丈夫。仮にも俺、能力者だぜ」 さすがにゴーストを数体、倒すのが関の山だろうけれど。 「あなたね…」 少しだけ言葉を失う彼女に、俺は最後に伝えるべき言葉を言った。 「学園に来ないか」 「えっ?」 「このままだと将来、レキナは『見えざる狂気』って奴に犯される。 力が、お前を変えちまうんだ」 ……かつて、俺が狂気に呑まれたように。 今度は靂奈が、誰かを傷つけてしまう。 それは耐えられない。 靂奈は俺の顔をじっと見つめていたが、やがて首を横に振った。 「家族が、住吉にいるもの。 置いては行けない」 「けど! イグニッションカードが無いと、あんた…」 「…大丈夫。今は行けないけど、高校になる頃には必ず行くわ。 だから心配しないで」 そう言って彼女は笑う。 「…そっか」 俺はほっとしたように、肩の力を抜いた。 「じゃあ、俺は行くよ」 「テオ君!」 その声に、俺は振り返った。 靂奈は、真剣な目で俺を見、そして言った。 「あの、ね。 小学校の女の子が、友達に呼ばれたってだけで、夜中に人目の無い所まで行くと思う?」 「…そういや、そうだけど…」 「私、テオ君のことが好きだった。 今でも、好きなの!」 言葉を失った。 俺は、靂奈のことをもっともっと深いところで、裏切っていたのだ。 「……悪ぃ。 俺、今、好きな奴がいるんだ。 俺、どこまでお前を傷つけちまうんだよな……」 どれだけ詫びようと、彼女には言葉が足りない。 俺は……。 「私、諦めないから! 高校になったら、絶対にテオ君にアタックするんだから! それまで、絶対に死んじゃダメだからねっ!」 「…死ぬかよ。 俺は生きて償うって、義父さんと義母さんに誓ったんだからさ」 俺は頷いた。 そして、彼女と別れた。 去り際に一度だけ振り返ると、彼女の元に黒猫が近づいていくのが見えた――。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
過去からのメール10――【5/3テオ 記す】2008-05-08 Thu 20:54
泣き崩れた俺が起き上がるのを待って、彼女と俺はいろんな話をした。
別れてから、俺と彼女が歩いた道のりを。 学園のこと、吸血鬼達のこと。 そして、別れる前の、学校でのこと。 「…強く、なりてぇ」 俺は気づくと、そう呟いていた。 話題は、直前に参加した依頼のことになっていた。 「何も…できなかった」 悔しさが、滲んだ。 アビリティがかわされ、戦闘になった直後には意識を失い。 そして、彼女の力にもなれなかった。 「償うために……生き残るための、強さが」 自分の無力さが、何よりも心に染みた。 「テオ君は、強いよ」 靂奈が俺の手を握った。 …俺が、ナナさんの手を握ったように。 「今のテオ君は、強いよ。 自分のことが、分かってるもの」 「でもっ!」 俺は思わず声を荒げた。 自分の素質による向き不向き、できることやできないことは少しぐらい分かり始めている。 今の実力が、どんなものかぐらい…。 「少なくとも、今のテオ君は、間違いを認められるぐらいに強いんだから。 目の前の強さを求めるだけじゃ、その強さを忘れちゃうよ?」 俺と同じ年の少女は、俺よりもずっと大人で、冷静だった。 俺は、彼女の強さに、息をのんだ。 「……悪ぃな。 お前に謝るはずが、お前に力づけられてばかりだ」 ……強くなりたい。 本当の意味で、もっともっと。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
過去からのメール9――【5/3テオ 記す】2008-05-07 Wed 21:55
「……済まない!」
JR住吉駅に近い、小さな公園。 声が聞こえる範囲に人がいないことと、靂奈がベンチに座ったのを確認すると、俺は深く頭を下げた。 結局、何を言えばいいのかは分からなかった。 赦してもらうのではなく、相手に謝りたい。 ただそれだけでここまできたけれど。 でも、それ以上のことを、言葉という形にできなかった。 なんとか声にできたのは、事実を確認する言葉だけ。 「…俺、俺は、お前のことを…っ、ころ……そうと……した…」 その途端、いろんな想いが俺の中で溢れた。 捻子蟲への――そして俺自身への憎しみ。 両親への思慕と、悲しみ、寂しさ。 絶望と、苦痛と、それらの負の感情がぐるぐると渦を巻く。 その中で、一つ確かな想いを、俺はかろうじて捕まえる。 「俺は、お前の気持ちを、踏みにじったんだ。 赦してくれとは、言わねぇ。 けど、どうか謝罪させてくれ…」 吐息が、想いが、涙となって溢れそうになるのを、俺は喰いしばった。 これは俺の苦しみであって、彼女への気持ちじゃない。 彼女に打ち明けるものじゃない。 と、手が暖かいものに触れた。 「人狼が植え込まれた捻子蟲のこと、聞いてるわ。 大変だったんだよね」 靂奈の手だった。 ……虚勢も、ここまでだった。 俺は、その場で崩れ落ちた。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
過去からのメール8――【5/3テオ 記す】2008-05-05 Mon 20:47
JR住吉駅内にある、小さなクッキー専門店。
その横には、試食も兼ねた10席ほどの喫茶スペースがある。 そこに彼女――成髪・靂奈(なるかみ・れきな)は待っていた。 硬い表情で外を見ていたはずの彼女は、俺を見て、息を飲んだ。 「久しぶりだな、レキナ」 「久し振り、ね。 …その傷はどうしたの?」 「依頼で、さ」 俺は自嘲の笑いを浮かべるが、靂奈には分かるはずもなく、首を傾げるだけだ。 俺は彼女の前の席に座り、メニューを開く。 そして財布の中身と比べる。 「――やっぱり外で話さないか?」 今の小遣いでは、ジュース代すら出そうにない。 「ピンチなの?」 「ああ。 ペットサロンで、使いきった」 「ぺっとさろん?」 「……いろいろ、あってさ」 いろいろとあったのだ、うん。 「…少しぐらいなら、おごるよ?」 「いや、それも悪いから」 「じゃ、ちょっと待ってて」 ちょうど食べ終わっていたらしい彼女が、会計を済ませる。 「近くの公園に行こっか」 「悪ぃ」 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |



