浄水ポット――【6/6 幻記す】2008-06-06 Fri 12:29
「来ましたか!」
私は喜々と宅配便の方に代金を支払った。 「何、それ?」 後ろでテオ君が首を傾げる。 「浄水ポットですよ。 水道水をこすだけで、美味しい水が飲めます。 何より、アイスティー用の水がいつでも手に入ります」 もう、アイスティの時期だ。 水出し紅茶は時間が掛かる(主に一晩ほど)し、消費も激しくなる。そう思うと、この出費は惜しくない。 早速取り出して説明書を見てみる。 「なんか、ふつーの硝子のポットなんだな。 電気ポットみたいなのかと思った」 テオがポットを眺める。 「あまり大きくても困るでしょう?」 扱いも簡単なようで、私は胸を撫で下ろす。 「これなら、テオ君のGT行きにもアイスティーを淹れてあげますよ」 「遠足じゃねぇんだからさ」 テオ君が苦笑いを浮かべる。 そしてこう続けた。 「そろそろ、依頼に参加しないとな」 私はそんなテオ君に笑って返した。 「頑張ってください」 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
花見日和も終わる頃 ――【4/5幻記す】2008-04-05 Sat 21:42
その日、彼は瞼を腫らして帰ってきた。
「テオ君?」 私は思わず驚きの声を上げた。 「幻? どした?」 テオ君は不思議そうに首を傾げる。 その表情はむしろ、とても澄んでいた。 「目、酷いですよ」 私はカードリストから手鏡を出してくると、テオ君に差し出した。 「…うわ、確かに酷いな」 彼は苦笑いすると、少し疲れた様子で肩をすくめた。 「…ちょっとさ。昔を思い出してきたんだ」 「……ご義両親のことですか?」 テオ君の育ての親は、亡くなったと聞いた。 「ああ」 彼は静かに頷くと、部屋に入り、椅子に座った。 「去年、約束したんだ。 三人で桜を見るって」 だから、そのことを……両親のことを忘れないために、花を見てきたのだと言う。 「神戸も鎌倉も、違わないな。 桜の美しさだけは」 そう言って、彼は笑う。 「でも、心配すんなよ。 大丈夫だから」 「そのよう…ですね」 私は頷くと、彼を急かせた。 「もうそろそろ、夕飯の時間ですよ。 顔を洗って、準備しましょう」 参考文献:『<花見>桜並木の土手にて』 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
春の夜の夢――【4/2幻記す】2008-04-02 Wed 21:05
夜中に、目が覚めた。
傍らを見れば、グレートモーラットに戻したミージュの姿がある。 私はその背中をそっと撫でると、もう一度眠ろうとする。 「う…ううっ」 その時、私の真上から何かうなされる声が聞こえた。 私は顔を横に出すと、上の様子をうかがう。 …傷が痛むのかな。 「も…」 も? 「『もふもふ』は禁止だよぉぉぉっ……やめて、その『わきわき』はヤだぁぁぁ……」 私は思わず脱力した。 あ……そう言えば、最近新しい結社に入ったと言っていたっけ。 おそらくそれ絡みのトラウマか何かだろう。 心配して損をしたかもしれない。 少なくとも傷が痛むわけでも、ナイトメアに捕まったわけでもなさそうなので、放っておく。 ……まったく、無茶ばかりして。 私は、先月末の出来事を思い出した。 3月30日、狂鬼戦争。 死の匂い――そう言うのは、『死』への侮辱になる。正確には、『死』を汚す物――に満ちた街を、私達は駆けた。 私はキャスターとして、テオ君はラストスタンドとして、別々に戦場に立ったのだ。 ……怖かった。 目の前で何人もの人々が傷つき――時に、動かなくなった体を見て。 敵のおぞましさと、現実の残酷さに、時に動けなくなったのも事実だ。 それでもなんとか戦い抜き、帰ってきた時に見たのは――横たわるテオ君だった。 「せ、生命賛歌が抜けてさ――体がいてぇよ」 苦笑いすると、テオ君はこう続けた。 「ほらな、俺もお前も、死ななかっただろ?」 「心配させないでよ、馬鹿っ!」 私は思わず叫ぶと、テオ君の体を叩いた。 「馬鹿、痛ぇってのっ!」 「バカバカバカ……」 「しょうがねぇだろ。皆を守るためなんだから……」 今も癒えない傷を抱えて、彼は笑った。 ……また、戦争があったら、彼はラストスタンドとして動くだろう。 だから……。 私はぎゅっと、ミージュを抱きしめた。 もう、戦争なんて起こらないで…。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
紅茶とボランティア――【3/18 幻記す】2008-03-18 Tue 20:30
3月18日、朝5時。
私は一つしかない薬缶と、ポット二種(通常のティーポットと、耐熱ガラスポット)をフル活動させていた。 今日は河川敷のゴミ拾いの日だ。私とテオ君はその手伝いに行くことになっていた。 昨日は『そのあと、雪柳を見に行こう』とか言ってたけど。 その彼は、ベッドの中でミージュを抱きながら熟眠している。 …依頼の疲れ、まだ抜けてなさそうだ。 この様子だと、山登りはまた今度だね。 一方の自分といえば、完全に意識が冴えていた。 『早朝』起きは慣れてる。『エキストラ』のために何度も起きてるから。 ![]() 物心ついた時から学園に入るまで、私は姉に早朝から叩き起こされていた。 『アイドル』『イケメン俳優』好きの姉さんは、なぜか私を道連れに『エキストラ』参加を繰り返した。 いつも目当ての人は、望遠鏡がいるような距離にしかいないのに。 未だに夢に見る、エキストラのエピソードはいくつもある。 歴代史上、最多イケメン数を誇った『仮○ライダー』シリーズの、『耐久長時間ロケ』のエキストラ。 最初は私も楽しかったけど、最後の方はほとんど眠ってた。 「『子供爆弾』撤去のため、あの子をさらって来なさい!」 とか言われ、『出演者に近付く子供』を、横合いから引きずらされたこと。 (『子供爆弾』というのは、“子供を出汁に芸能人に近付く”という、有名なマナー違反方法……らしい) あの子供の親の般若顔だけは、未だに悪夢だ。 真夏に撮影する『真冬の災害避難所ロケ』では、姉さんの用意したスポーツ飲料をいくつも飲んでたっけ。 そんな時、いつでも姉さんは『紅茶の入った保温ポットと蜂蜜』だけは持ち歩いていた。 ぐずる自分や周りの人に、いつもそれを手渡し、「あと少しだから」と励ましてくれた。 ![]() 「『エキストラ』も、ボランティアの一種だから……か」 姉さんの言葉を思い出しながらも、私は紅茶を保温ポットに詰めていく。 正確には『紅茶』じゃなく、緑茶だろう。 『桜の葉と緑茶を混ぜたものに、僅かに紅茶を混ぜたもの』だから。 立ち上る湯気は、一足早い桜の香りを伝えてくる。 あの時、“香りと糖分が私の疲れを癒してくれた”ように。 このお茶が、参加者の皆の疲れを癒してくれるといいのだけれど。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
紅茶に潜む罠――【3/14 幻記す】2008-03-14 Fri 21:06
「山、外れた…」
予想外の点数に、私は茫然としていた。 総合得点292点(211位)。…まぁ、平均程度だろうか。 ちなみに、ルームメイトのテオ君は340点(38位)とのこと。 『半年失踪してたから、勉強ついていけねぇぇっ!!』 とかのたまってた人の点数だろうか。 そんな風に軽く黄昏ていた自分に、一枚のカードが手渡された。 「あれ、また案内状ですね」 この学校では、こんな風に誕生日の案内状が配られることが多い。 私は誕生日祝いらしい案内状を見、そこに書かれた『紅茶』の文字に心惹かれた。 「紅茶パーティですか。いいですね」 つい先日もハーブティ・パーティに参加したばかりだ。 依頼者は先輩――すごいお嬢様だ、と聞いたことがある。 その自宅ならば、建物も調度品も庭も、一見の価値があるだろう。 少なくとも、この微妙な点数に凹んでいるよりは、よっぽどいい気分転換になる。 私は出席の印に丸をつけた後で、案内状に小さく書かれた注意事項に気づいた。 ぴぴっぴぴっ。 その時、私の携帯電話――テオ君から譲ってもらった、詠唱銀入りのもの――にメールが入った。 『幻、頼む。 俺の分も『河川敷掃除』を申し込んでおいてくれ』 …テオ君からのメールに、私は目を白黒させた。 『花見』じゃなくって、その掃除を? 「あ、幻。一緒にそれ、出しとこか?」 首をかしげている自分に対し、クラスメイトが声を掛けてくる。彼も出欠届を出しに行くらしい。 「よろしいのですか? ではお願いします」 私は携帯電話から視線を外すと、ひとつ頷いた。 「ん。OK」 彼はすぐに走って行った。 そこで私は、さっきの注意事項に目を通した。 『身長150cm未満、もしくは12歳以下は半ズボン着用』 …半ズボン…? 「嘘ぉっ!?」 時、すでに遅く。 返答の手紙はすでに出された後だった。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |




