一回忌とアイス・ガントレット(2/2)――【8/12 テオ記す】2008-08-11 Mon 10:42
その中に渦巻くのは、残留思念。 苦しみ、悲しみ、驚き―――今だに形にならぬそれが、影の中で渦巻いている。 とっさに詠唱銀の欠片を放り込んだのは、紫刻館通いで培われた反射反応の何物でもない。 ――塩が、水の中の雑成分を核にして結晶化するように。 義父達の死の間際の思いが、凝り固まっていく。 「これって、まさかテオ君の……」 「ああ。おそらくは。 でも、なんで今?」 「ちょうど一年後だから? それとも、私とテオ君が揃ったから?」 残留思念は、二つの武具に姿を変えた。 「アイス・ガントレット?」 そのうちの一つを掴み上げた俺は、思わず息を飲んだ。 白銀にネイビーブルーのラインが入ったそれは、確かに力を秘めていたから。 靂奈もまた、古代紫色の詠唱兵器を拾い上げていた。 俺には見覚えのない詠唱兵器だ。少なくとも、学園には使い手がいない。 「すごい力」 靂奈がぽつりとつぶやく。 「靂奈は、それを使えるのか?」 俺の問いに、彼女はこくんと頷いた。 「なら、これを持っていてくれないか。 きっと、義父さん達が、俺達に遺してくれたんだ」 ……分かってる。残留思念から生まれる武器に、法則も理由も無いってことは。 だけどその時だけは、そうとしか思えなかった。 「ありがとう。 うん、大事にする。絶対に」 靂奈はそう言って、武器を胸に押し当てる。 俺もまた、アイスガントレットを胸に押し当てた。 ――夕陽よりも濃い紺と紫の光が、俺達の瞳に焼き付いていた。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
一回忌とアイス・ガントレット(1/2)――【8/12 テオ記す】2008-08-11 Mon 10:41
養父母の一回忌の法要とその後片付けが全て終わり。
俺は喪主代理を務めてくれた義理の叔父に礼を述べると、ある場所へと向かった。 ――俺が両親を殺した、その場所へ。 ![]() 夕暮れ時の河川敷の橋桁近くに、先客がいた。 「靂奈」 養父母の死の現場に居合わせた、もう一人の能力者が彼女だ。 「テオ君、お久しぶり」 彼女は勿忘草の花束を抱えていた。それを見て、俺はことばを失う。 ……二人の死を引きずっているのは、彼女も同じなのだ。そのことを、今更ながらに思い知らされる。 「それよりテオ君、こっちへ」 土手を駆け上がった彼女は、俺の手を掴むとそのまま土手を駆け降りる。 導かれるままに橋桁に近づいた俺は、目の前の光景に絶句した。 「義父……! 義母さんっ!」 橋が生み出す巨大な影の中、淡い光が浮かぶ。それは義父と義母の姿に酷似していた。 その二つは手招きと共に、夕陽の影の中に消える。 「待って!」 頭の中では、それは養父母ではないと理解していた。 だが、感情は俺をそのまま影の中に飛び込ませる。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
混血――【8/6 テオ記す】2008-08-05 Tue 16:00
「お願いします」
俺は目の前の『雪女』――性別は男だが――に頭を下げた。 「私こそ、な」 俺は手の甲を自分のレイピアで傷つけると、目の前のグラスに雫を落とす。 相手も同様に、グラスに血の雫を落とした。 俺達はグラスを交換すると、互いの血を意志と共に飲み込む。 人によって手順は違うらしいが、こうして俺と彼は『互いの種族の能力』を血と共に取り込んだのだ。 こうして俺は炎を使う力を封印し、『雪女』達の力をつかえるようになった。 後は詠唱銀を使い、そのアビリティを覚えるだけだ。 「大切に使わせていただこう」 相手の言葉に、俺は慌てて 「こちらこそ」 と頭を下げた。 ――強くなりたい。 あの依頼からずっと胸に抱いている想いと向き合うために。 俺は自分の可能性をひとつ、広げる。 |
Spy Novel――【7/04 テオ記す】2008-07-04 Fri 21:36
「テオ君、プレゼント」
予告も無く俺の部屋にやってきた勇介は、やはり前触れもなく一冊の本を手渡した。 そのタイトルは『サクラの後継者〜警備企画課(Zero)〜――四。HUMINTの臨界』。 「あ! 『Zero』シリーズの最新刊じゃん!」 「んふふぅっ。フライングゲットしてきたんだよね」 得意げな顔と共に、差し出してくる。 児童向け諜報小説――の割には内容がちょっぴりリアル過ぎる人気シリーズだ。 なんでも第二巻『MKULTRAの遺産』ではCIAから圧力がかかったとは。 俺も愛読している。 「楽しみにしてたんだよな。防衛省の女の目的がなんなのか、すっごく気になって。 でも、わざわざ俺のために?」 「まぁね。…お礼は三倍返しでよろしく〜」 得意げな表情から、いたずら者の笑みへと変える。 ああ、そういやこいつの誕生日は9日だったか。 「ん、考えとく」 詠唱防具の中でちょうどいい奴があった気がする。それを送ろう。 「でも、スパイって言ったらさ」 勇介が首を傾げる。 「俺らと同じ年の人達が潜入捜査してるんでしょ?」 「……ああ。そうだったな」 超能力研究所。 そこに囚われた仲間を救うために、学園の生徒が潜入している。 ……実を言えば、俺も依頼参加を申し出ていた。 「無茶、しなきゃいいんだけどな」 前回の東北土蜘蛛の潜入捜査での犠牲を思い返し、俺は唇をかむ。 「テオ君にだけは言われたくないと思うよ」 「さらっと言うな」 出発してから大分経つ。あれからどうなっているのか、学園にいる身では知りようもないけれど。 どうか、無事に仲間を助けだし、誰一人欠けることなく帰ってきてくれ。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |
紫刻館と吸血鬼-2――【6/27 テオ記す】2008-06-30 Mon 21:34
二人と二体のサキュバス・キュアと共に、俺は紫刻館を彷徨う。
表面では後輩としての態度を繕えても、胸の奥には何かが痞えている。 その迷いは、能力者としての戦いに慣れない彼らへのフォローを遅らせ。 そして。 「先輩!?」 目の前で貴種ヴァンパイアの彼は倒れた。 ……その時になって、やっと。 俺はただ無心に走り、先輩を手に掛けた、目の前の敵を串刺しにした。 ![]() 倒れた彼をサキュバスが支える。従属種ヴァンパイアの彼女も、不安そうに見つめている。 「大丈夫ですかっ!?」 俺は慌てて脈を確認し、傷の具合を確認する。 ……大丈夫だ。 傷つき過ぎただけで、重症にもなっていない。 俺は安堵し――相手を心から心配できる自分にようやく気づいた。 「帰りましょう。 先輩を手当てできる場所に行きたいから」 俺はそう言うと、直ぐに玄関に向かい始める。 ――今なら。 『彼らは仲間』だと、俺は迷いなく言い切れるから。 テーマ:Silver Rain - ジャンル:オンラインゲーム |




