テオの銀の雨降る日々

 詳しくは<<はじめに>>をご参照ください。


一回忌とアイス・ガントレット(2/2)――【8/12 テオ記す】


 その中に渦巻くのは、残留思念。
 苦しみ、悲しみ、驚き―――今だに形にならぬそれが、影の中で渦巻いている。

 とっさに詠唱銀の欠片を放り込んだのは、紫刻館通いで培われた反射反応の何物でもない。

――塩が、水の中の雑成分を核にして結晶化するように。
 義父達の死の間際の思いが、凝り固まっていく。

「これって、まさかテオ君の……」
「ああ。おそらくは。
 でも、なんで今?」
「ちょうど一年後だから?
 それとも、私とテオ君が揃ったから?」

 残留思念は、二つの武具に姿を変えた。

「アイス・ガントレット?」
 そのうちの一つを掴み上げた俺は、思わず息を飲んだ。
 白銀にネイビーブルーのラインが入ったそれは、確かに力を秘めていたから。

 靂奈もまた、古代紫色の詠唱兵器を拾い上げていた。
 俺には見覚えのない詠唱兵器だ。少なくとも、学園には使い手がいない。
「すごい力」
 靂奈がぽつりとつぶやく。

「靂奈は、それを使えるのか?」
 俺の問いに、彼女はこくんと頷いた。
「なら、これを持っていてくれないか。
 きっと、義父さん達が、俺達に遺してくれたんだ」


 ……分かってる。残留思念から生まれる武器に、法則も理由も無いってことは。
 だけどその時だけは、そうとしか思えなかった。


「ありがとう。
 うん、大事にする。絶対に」
 靂奈はそう言って、武器を胸に押し当てる。
 俺もまた、アイスガントレットを胸に押し当てた。

 ――夕陽よりも濃い紺と紫の光が、俺達の瞳に焼き付いていた。

 

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一回忌とアイス・ガントレット(1/2)――【8/12 テオ記す】

 養父母の一回忌の法要とその後片付けが全て終わり。
 俺は喪主代理を務めてくれた義理の叔父に礼を述べると、ある場所へと向かった。

 ――俺が両親を殺した、その場所へ。




 夕暮れ時の河川敷の橋桁近くに、先客がいた。
「靂奈」
 養父母の死の現場に居合わせた、もう一人の能力者が彼女だ。
「テオ君、お久しぶり」
 彼女は勿忘草の花束を抱えていた。それを見て、俺はことばを失う。
 ……二人の死を引きずっているのは、彼女も同じなのだ。そのことを、今更ながらに思い知らされる。

「それよりテオ君、こっちへ」
 土手を駆け上がった彼女は、俺の手を掴むとそのまま土手を駆け降りる。
 導かれるままに橋桁に近づいた俺は、目の前の光景に絶句した。


「義父……! 義母さんっ!」


 橋が生み出す巨大な影の中、淡い光が浮かぶ。それは義父と義母の姿に酷似していた。
 その二つは手招きと共に、夕陽の影の中に消える。

「待って!」
 頭の中では、それは養父母ではないと理解していた。
 だが、感情は俺をそのまま影の中に飛び込ませる。

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混血――【8/6 テオ記す】

「お願いします」
 俺は目の前の『雪女』――性別は男だが――に頭を下げた。
「私こそ、な」

 俺は手の甲を自分のレイピアで傷つけると、目の前のグラスに雫を落とす。
 相手も同様に、グラスに血の雫を落とした。

 俺達はグラスを交換すると、互いの血を意志と共に飲み込む。


 人によって手順は違うらしいが、こうして俺と彼は『互いの種族の能力』を血と共に取り込んだのだ。
 こうして俺は炎を使う力を封印し、『雪女』達の力をつかえるようになった。
 後は詠唱銀を使い、そのアビリティを覚えるだけだ。


「大切に使わせていただこう」
 相手の言葉に、俺は慌てて
「こちらこそ」
と頭を下げた。


 ――強くなりたい。

 あの依頼からずっと胸に抱いている想いと向き合うために。
 俺は自分の可能性をひとつ、広げる。
 


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Spy Novel――【7/04 テオ記す】

「テオ君、プレゼント」
 予告も無く俺の部屋にやってきた勇介は、やはり前触れもなく一冊の本を手渡した。
 そのタイトルは『サクラの後継者〜警備企画課(Zero)〜――四。HUMINTの臨界』。
「あ! 『Zero』シリーズの最新刊じゃん!」
「んふふぅっ。フライングゲットしてきたんだよね」
 得意げな顔と共に、差し出してくる。
 

 児童向け諜報小説――の割には内容がちょっぴりリアル過ぎる人気シリーズだ。
 なんでも第二巻『MKULTRAの遺産』ではCIAから圧力がかかったとは。
 俺も愛読している。

「楽しみにしてたんだよな。防衛省の女の目的がなんなのか、すっごく気になって。
 でも、わざわざ俺のために?」
「まぁね。…お礼は三倍返しでよろしく〜」
 得意げな表情から、いたずら者の笑みへと変える。

 ああ、そういやこいつの誕生日は9日だったか。

「ん、考えとく」
 詠唱防具の中でちょうどいい奴があった気がする。それを送ろう。



「でも、スパイって言ったらさ」
 勇介が首を傾げる。
「俺らと同じ年の人達が潜入捜査してるんでしょ?」
「……ああ。そうだったな」

 超能力研究所。
 そこに囚われた仲間を救うために、学園の生徒が潜入している。
 ……実を言えば、俺も依頼参加を申し出ていた。


「無茶、しなきゃいいんだけどな」
 前回の東北土蜘蛛の潜入捜査での犠牲を思い返し、俺は唇をかむ。
「テオ君にだけは言われたくないと思うよ」
「さらっと言うな」

 出発してから大分経つ。あれからどうなっているのか、学園にいる身では知りようもないけれど。
 どうか、無事に仲間を助けだし、誰一人欠けることなく帰ってきてくれ。 



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紫刻館と吸血鬼-2――【6/27 テオ記す】

 二人と二体のサキュバス・キュアと共に、俺は紫刻館を彷徨う。
 表面では後輩としての態度を繕えても、胸の奥には何かが痞えている。

 その迷いは、能力者としての戦いに慣れない彼らへのフォローを遅らせ。
 そして。

「先輩!?」
 目の前で貴種ヴァンパイアの彼は倒れた。


 ……その時になって、やっと。


 俺はただ無心に走り、先輩を手に掛けた、目の前の敵を串刺しにした。





 倒れた彼をサキュバスが支える。従属種ヴァンパイアの彼女も、不安そうに見つめている。
「大丈夫ですかっ!?」
 俺は慌てて脈を確認し、傷の具合を確認する。

 ……大丈夫だ。
 傷つき過ぎただけで、重症にもなっていない。


 俺は安堵し――相手を心から心配できる自分にようやく気づいた。


「帰りましょう。
 先輩を手当てできる場所に行きたいから」
 俺はそう言うと、直ぐに玄関に向かい始める。


 ――今なら。
 『彼らは仲間』だと、俺は迷いなく言い切れるから。
 
 

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